この論文は、診療に患者の心理が関わることを前提としており、最初に患者さんに共感を示す組と非共感組に分けた。鍼治療群(中医学的治療、鍼6本)、偽鍼治療群、偽皮膚通電の3つの治療法を用い、しかも3 人の施術者がそれぞれに実施した。2 週に 1 回の治療を 4 週間、すなわち隔週で2回治療をした。患者さんは痛みが軽くなったか否かをビジュアルアナログスケールで表した。
結果は、 1. 共感・非共感の比較では有意差 (統計的に区別)が無かった。
2. 鍼治療・偽鍼・偽皮膚通電の 3群に有意差が無かった。
3. 一人の施術者の効果が他の2 人より高い傾向があった。
ん〜ん、鍼治療ってなんなのでしょう・・・・。
論文では、治療師の人間性が治療効果に大きな影響を示した可能性を指摘し、鍼治療の有効性を否定しているが、いろいろな考え方ができると思います。
確かに、このデータから意見を言うのならば、中医学的な鍼は効かないと言うことになります。彼らは「気学」は1世紀も前に否定されて消滅したと加えているようです。伝統とは何を意味するのでしょうか・・・。
日本の鍼灸治療には、中医学的な伝統を重要視する治療法、圧痛や硬結を刺戟する治療法、鍼通電療法、良導絡、反応点治療・・・数限りなく治療法がされています。そして、それぞれの治療師が自分の信ずる治療法を実施しています。信念を持って患者さんに対応する治療師ほど、思いは強いように思われます。それをカリスマと呼ぶのでしょうか・・・・。
私は、以下のように感じました。
・中医学は考え方であり、医学的根拠が無い。そして伝統的な治療ですが欧米の鍼灸治療では一般的です。実験方法としては科学的な手法ですが、根拠の不明なものを科学的に評価しようしすることに疑問があります。もっと、治療法や刺激に応ずる生体反応などを含めて議論すべきかと思います。少なくとも医学的に妥当な治療法を選択したなら異なった結果を生んだでしょう。ちなみに反応点治療は自律神経反射を診察や治療に、痛みについては自源抑制を用いますが、生理学(神経学) で確定された理論に則って行います。
・治療師の技術の程度がどうなのか・・・、中医学は複雑で治療の技能に大きな差があると考えられています。しかし、個人の技能はその人の経験や知識によって形成されますから、同じ治療法が同じ診察結果を生むとは限りません。感覚は生理学的にほぼ解明されていますが、その表現は個人の体験や知識によって異なります。しかし、他人に伝える時に言葉や文字で伝えるならば、受け止め方は千差万別、感覚情報が信頼されにくい所以です。反応点治療では、反応点の範囲が共通か否かを重要視し、言葉などの表現を重要視しません。そして治療後に回復したか否かを反応点治療研究会のメンバーが共有できるか否かを大切にしています。会員であれば同じ治療・同じ判断ができることを目的に活動しています。
・2週に1回で、2回の治療が、鍼治療の評価に適正なのか・・・、この条件は言語道断です。生理学的に納得できるものではありません。すなわち、鍼刺激は、ポリモーダル受容器を興奮させて特に交感神経系にインパクトが強い治療法です。神経の活動は長く継続されるものではありません。一瞬一瞬の変化に対応して働きますから2週間に1回の治療がどんな意味を持っているのでしょう。そして2週間に1回の治療で快方に向かうのであれば、その治療の効果は鍼治療の効果では無いかもしれないのです。例えば、薬は1日に3 回服用します。薬物は体の中で分解されて排出されますから、一定の濃度が体に残ってい無いと薬理効果はでません。しかし、鍼による神経活動はもっと短いのです。=反応点治療が交感神経反射を主たる判断基準にする意味は、瞬間的に病態や治療効果を反映するからです。 どうやら、薬理や生理学に詳しく無い方のアイディアによる実験でしょうか・・・。
・ただ、この種の実験によって鍼灸治療の価値が評価されるようになることは意味深いと思います。単に実験のケースとしてはいいのですが、この結果をそのまま受け止めるならば、思考が足ら無いのかも使れません。プラセボーについては、まだまだ問題が多いようです。そして、日本の鍼灸師諸君に限らず臨床を業とするは基礎研究に疎いのが現状でしょう。基礎医学を熟知してこそあるべき姿としての鍼灸治療が出来上がると考えています。